漢方薬を選択する上で重要な概念として『証』があります。
多くの漢方薬はその人の体質や症状にあったものでないと十分に効果を発揮することができません。漢方診療ではその人の体質をみるための独自の指標があり、その一つが『証』です。
『証』とは、分かりやすくいうと「その人の状態(体質・体力・症状の現れ方などの個人差)をあらわすもの」です。本人が訴える症状や、体格などの要素から判別します。そのため同じ症状でも『証』が違えば選択する漢方薬も違ってきます。
今回は『証』のなかの『味証』について書いていきたいと思います。
『味証』とは、正に『味』のことで、「味をどのように感じるか」を漢方薬を選ぶ基準とする考え方です。
漢方薬は基本的に美味しいものではありませんが、人によって同じ漢方薬でも味の感じ方に違いがあり、抵抗なく飲める方、不味くて全く飲めない方がいます。
抵抗なく飲める方は体質に合っていると考えられるため、再診時に明らかな効果の実感がない場合も継続することで効果が出てくる可能性があると考えます。
逆に不味くて仕方がない、とても飲み続けられない、途中で飲むのをやめてしまったという場合は、体質に合っていないと考えたほうがいいかもしれません。ただ、中にはもともとかなりクセの強い味がするものもあるため、味だけを漢方薬を選ぶ基準とすることはなく、症状に対する効果も含め総合的に判断します。
漢方薬はその時の体調によっても合うものが変わるため、長らく定期的に飲んでいた漢方薬がある日なんとなく口に合わなくなる、といったこともあります。
私はまだまだ漢方治療の経験が浅く、漢方の世界でご高名な先生のような実力もないため、診察して漢方薬を選択する上で方剤の選択を迷うことが多々あります。
そんな時は2週間ほど内服していただいた上でその漢方薬の味について伺うこともよくあります。味が合っている方は良好な経過であることが多い印象です。
薬を考える上で『味』のことを考えるという発想は西洋医学にはありません。
これも漢方薬がすべて自然界のものを原料としているが故なのでしょうか、不思議ですが興味深いですね。
ただ、これを読んでいただいた皆様にひとつお願いがあります。『不味い』と感じただけで今処方されている漢方薬を自身の判断で中止してしまうのはどうかおやめ下さい。
処方されたお薬には必ず処方医の意図があります。まずは処方されたお薬を決められた用法通りに飲んでいただき、味の感想については次の診察の時にお聞かせいただけると以降の方剤選択や治療方針決定の助けになるため、ありがたいです。
今回は漢方薬の『味証』について解説いたしました。今後も不定期ですが『漢方のはなし』は細々と続けていきますのでどうぞ宜しくお願いします。
末盛内科クリニック
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